スポーツ外傷・障害 専門外来を受診される皆様へ

診察風景「レントゲンやMRIで異常がないから大丈夫。」、「痛みがなくなるまで安静にして。」、「痛みがないなら徐々にやってみようか。」、「スポーツをやめないと治らないよ。」 、 、 、 これらの言葉を病院で言われた経験はないでしょうか。これらの言葉は私が子供の頃に熱中していた野球で怪我をした際、実際に病院で言われた言葉です。子供ながらに「病院に行っても仕方がない」と思ったのを記憶しています。

投球動作 そもそもスポーツによる怪我の原因は何でしょうか。当専門外来を受診した患者さんの怪我を調査した結果、約3分の1は他選手などとの”接触”が原因でしたが、残りの3分の2は”非接触”の怪我でした。”非接触”の中で原因が特定できたもの多い順に挙げると「ラン動作」、「着地動作」、「投球動作」となります。つまり、スポーツ活動の中で繰り返し行う動作そのものが怪我の原因となっていることがわかります。中でも「着地動作」のミスによって発生した怪我は、”接触”を含む他の原因と比べて圧倒的に手術や長期離脱に至る可能性の高い危険な怪我です。それに対して「ラン動作」や「投球動作」による怪我は、痛みを我慢したまま競技を継続できる軽症から中等症のものが多いものの、冒頭で述べたような扱いを受けて”放置”されることが少なくないようです。その結果、痛みを我慢しながら競技を継続することで、パフォーマンスが上がらないばかりか徐々に症状は悪化し、長期的には本人の意思に反して競技継続を断念せざるを得ないことになります。
診察風景 一度で危険の怪我をするリスクの高い「着地動作」、繰り返すことでパフォーマンスや競技継続に大きな影響を与えかねない「ラン動作」や「投球動作」、我々はこれらのスポーツ動作を正しく改善することがスポーツによる怪我の治療や予防になると考えています。従って、我々の診療は診察室内で行う一般的なスタイルをとっておりません。当専門外来の診療は、原因となったスポーツ動作をリハビリ室内や屋外で評価するところから始まります。その結果、柔軟性や筋力に問題があることがほとんどですので、それぞれに必要なストレッチや筋力強化エクササイズの指導を行い徹底的に改善させます。しかしながら、チームスポーツにおいて個々の能力が高くてもチームとして連携がとれなければ試合に勝てないように、柔軟性や筋力など体の各パーツの問題を改善するだけでは正しいスポーツ動作ができるようにはなりません。正しいスポーツ動作を遂行できるように「体のチームワーク」を鍛え上げることで次の怪我を防ぎ、そしてパフォーマンスの向上に繋げるところまでが我々の診療であると考えています。
 「病院に行っても仕方がない」という言葉は残念ながら今でもよく耳にします。これは過去から現在にかけて、我々医療者がスポーツによる怪我に真摯に向き合って来なかった結果と思います。私たちは一人でも多くのスポーツ選手が怪我の原因を知り、何をすべきかを自分で考え、自分の体の問題に正しく向き合うきっかけを作りたいと考えています。そして10年、20年後には「病院に行っても仕方がない」という言葉が過去のものになっていることを心から願っています。

芦屋中央病院 整形外科 迫田真輔